【感想・本】和田竜『のぼうの城』:ボイスでは書ききれないくらいのミステリーと衝撃
最近、だいたい本の感想はボイスの方に書いてるんですが、少し長くなるので。
和田竜『のぼうの城』。
みまさかオープンで答えたのも一つの縁、と思い借りてみました。
なお、みまさかで答えられたのは、「スピリッツで花咲アキラが漫画化(どうみても主人公は「美味しんぼ」のお悩み相談キャラでいそうな感じ)」+「プレジデントでインタビュー受けてて、そこで"名前の由来は坂本竜馬"と語る=名前は"りゅう"ではなくて"りょう"」という点でインパクトがあったからですが。
読み進むにつれ、あまりのミステリーさに衝撃を受けました。
ここまで、とは思わなかった。
まだ読んでない方で、これから読んでみようという方は、ここで回れ右推薦。
そのミステリーとは。
「なんでこんなレベルで、本屋大賞で2位とれるの?」
好きな方もいるかもしれませんが、個人的には今年読んだ本で最大の不作。
ここ数年では、石田衣良の「下北サンデーズ」レベルでした。
集合知ってのはそれなりにたいしたもんで、自分が今まで首をひねった作品は、だいたいamazonで見ると評価がいまいちなんですね。それだけ自分の感覚がありきたり、という証明でもあるんだけど。最近の伊坂・モリミー作品といい、「食堂かたつむり」といい。(乾くるみのように別の意味で評価が分かれる人もいるが)
ただ、「のぼうの城」は案外評価が悪くなくて、その点でもミステリー。
せりふ回しが時代小説っぽくない、ってのはまだいいんです。最初は凄く不自然に思えたんですが(地の文がいかにも時代小説調だから余計に)、だんだん許容できるようになってきました。
確かに自分は吉川英治とか司馬遼太郎が好きで、彼らの文体を「時代小説っぽい」と認識しています。が、あれだって当時の人から見たら有り得ない文体だし、作者と同世代以上の人から見ても「納得いかん」という人もいるでしょう。
時代小説の題材を、現代小説にもありそうな台詞回しで書く。それは悪くない。せっかくだったら地の文も現代っぽくしてもいいんでないの、というくらい。
で、題材も悪くない。
戦国好きでも忍城攻防戦ってそんなにメジャーじゃないし、興味深いエピソードではあります。
史実に沿ってる沿ってない、というところも、当方はあまり気にしません。
が、「お話」としてつまんないんだよねえ。
最大の問題は、主人公はじめとする登場人物の「凄さ」が伝わらないことかなあ。
作中の人物と語り手が一方的に「凄い」「智謀の士だ」と言ってるだけで、どう凄いのか、どう智謀を尽くしているかがどうもわからない。
普通であれば、エピソードの積み重ねとか、細部細部の表現で「凄さ」を伝えるものだと思うんですよ。それを言葉で「凄い智謀」って言われてもねえ。
あと、キャラクターが一面的で類型的。なんか「キャラクター設定から一歩も外れることなく動かされている感」が凄くします。上記の通り、キャラクターの個性がエピソードで伝わってなくて、台詞と地の文だけで直接表現してしまっているから余計に。
展開もご都合主義、というかここまで勝ちっぱなしの話は「逆にご都合主義じゃないのでは」という気もしてきます。
まさにデウス・エクス・マキナ勢揃い。エース級の味方はともかく、たいしたことなさそうな味方までもが失敗無しの大活躍。そして甲斐姫に至っては、「なぜ彼女をそこまで推すのか」さっぱりわかりません(どうでもいいけど戦国無双3に出てるんだってね。チョイスが渋い)。
最大の敵役であるべき石田三成のキャラクター造形も駄目駄目。都合のいい展開にあわせているので、ひたすら「ただのやられ役」です。
で、ある程度戦国好きだったら、三成と長束正家が戦争下手っていう認識はあるわけで(コーエー風にいうなら「戦闘13くらいの官吏が、田舎城を攻めてる」ようなショボい図)、それを裏切るような意外な視点があるのか、あるんだろうな、という期待はありました。
ところがこれが微塵もなくて、「そりゃ負けるだろ」という行動のオンパレード。人物的にも「生真面目」という既存イメージをはみ出すところもなく……いやBASARA調にはみ出されるのも好みではないのですが……。
そして隣で正論を語り続けるおおたににゃんぶ、もとい大谷吉継。ある意味一番時代小説っぽいキャラ造形。亡国の家老などの「正しいこと言い続けたけど受け入れられない」キャラですね。
最後、三成・吉継・正家が、戦後交渉で忍城を訪ねるシーンがあるんですが……これ戦国ものじゃなくて、「主人公のチームに乗り込んで感想戦やってるライバル校」のノリだよね、スポーツものの。
いや、戦国ものをスポーツもののノリで書くのはいいんだけど、それでもあまりにテンプレートなやりとりでがっかり。
他の方のレビューを見ると、「漫画っぽい、ラノベっぽい」というところで評価が分かれるようです。
ラノベは読まないのでコメントは控えますが、仮に漫画だとしても、このキャラの安直な描き方は駄目だろう。港浦さんは許したとしても斉藤さんは許さない。これ、漫画にたとえるとしたら、「エピソードでも画力でもキャラの凄さが伝わらないから、吹き出しとナレーションで"凄い""凄い"と言ってる漫画」で、いくらなんでもそれは受け入れられなさそう。
本屋からすれば、そこそこ読みやすくて、オノ・ナツメの表紙がスタイリッシュだったら、それで売れるからいいんかい……って悪態つきたくなるような内容だったなあ……。
まあ、一銭も使わずに図書館で借りてる人間が言うことではないですが。
好きな方がいたら申し訳ないし、わざわざ「つまらない」ということ自体がつまらないことなので、普段はこの手の日記はあまり書きません。
しかし、あまりの衝撃故に、思わずウザい長文を書きました。
絶望視される中での小国の大国への抵抗、一見暗愚に見える主人公が実は凄かった……というのが読みたいんだったら、ちょっと長いけど司馬遼太郎の「峠」読もうぜ。当方はこちらの方がはるかにドキドキしました。
かわいかわいと今朝まで思い 今は愛想もつきのすけ。
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